GTP Research
生命発生そして進化の過程でなぜGTPエネルギーが使われるようになったのか?生命はATPとGTPを使い分けることで、どのような機能を獲得し進化を可能としてきたのだろうか? ダイナミックに変動するGTPエネルギー代謝を支える仕組みと変動が持つ意味は?私達はこうした生命システムの根源的なメカニズムを、一つひとつ紐解いています。
GTPセンサー・PI5P4Kβの発見は、進化の過程で新たなGTPエネルギー利用が生まれたことを示すものでした。しかしながら、PI5P4Kβがいつから、どのように、何の為にGTPセンサーとなったのか、ヴェールに包まれています。私達が独自に得たGTPセンサー機能欠失型PI5P4Kβを発現する細胞やマウスの解析から、癌や代謝疾患への関与、さらには胚発生から脳機能制御などに関与していることが示されつつあります。現在、PI5P4Kβに対する特異的な阻害剤を開発しておりツール化合物として、今後大きな威力を発揮すると考えています。GTPセンサー変異マウスの解析は、糖代謝やインシュリン応答性など生理学的手法、そして私達の大きな強みでもある慶應先端生命科学研究所の代謝解析基盤のお蔭で、細胞から臓器までの多層的オミックス解析が進行中です。
野生型PI5P4Kβおよび、GTPセンサー機能の無いPI5P4Kβのがん細胞における比較。野生型PI5P4Kβではがん細胞が増殖、腫瘍を形成し(左、赤矢印)、GTPセンサー機能の無いPI5P4Kβではがん細胞が増殖しなかった(右)
また2019年にNature Cell Biologyへ報告した発見により 、悪性脳腫瘍がGTP代謝をハイジャックし増殖作用を高めていることが分かってきました。この悪性脳腫瘍でのGTP代謝スイッチには、GTP代謝経路の分子の一つイノシン酸脱水素酵素(IMPDH)の発現増加がトリガーとなっていました。IMPDHにより増加したGTP量は、核小体(仁とも呼ばれています)におけるタンパク質合成工場であるリボソームを作るシグナルとなっていること、同時にIMPDHにより合成されたGTPはリボソームの部品となり組み込まれていることが分かりました。こうしてIMPDHの作用で増大したタンパク質産生のキャパシティが、癌の爆発的な増殖を支えていたのです。また、IMPDHの作用により核小体が鬼の目のように大きくなることも見出し、癌における核小体肥大の100年の謎を解く発見となり、NHK Worldをはじめ様々なメディアで取り上げられました。
重要なことに、この発見で細胞や臓器のGTPエネルギー収支を制御するシステムの一端が見えてきました。そして、どうやらPI5P4Kβ以外にもGTP応答性の分子がまだ複数いることが分かってきました。IMPDHは実に巧妙な制御を持っていることを、我々は見出しつつあり、そのシステムを突く創薬を進めています。
このように、創薬科学によるGTPバイオロジーの新たな解析ツールや疾患治療を狙う薬剤、ビックデータ解析、進化生物学、タンパク質から組織までの構造を捉えるトランススケール生物学、など様々な分野を融合することで、GTPの司る生命現象を捉えるのが私達GTP-GEEKSの真骨頂です。癌、肥満・代謝疾患、免疫疾患など病態でのGTPエネルギー変化を標的とした治療が生まれると期待されます。